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借  地  更  新  料

  高度経済成長期の頃であれば、地価が諸物価等に比べてまだ安かったせいか、「借地」の地代も安く、また20年毎にくる借地契約の更新の際にも、更新料は安いものでした。場合によっては、地主も借地人も更新のことなど忘れていて、いつの間にか更新時を過ぎてしまい、更新料が無料になってしまったなどという、のんびりした時代もありました。
  しかし、地価は、この近年下がったとは言え、他の諸物価に比べて非常に高いものです。東京近郊の一応人が住める土地という条件で、坪あたり50万円以下のものを捜すのは難しいのが現状です。

  今でこそ「借地権」というものは、ほぼ「確立」していて、地主・借地人双方とも、このあたりでは借地権は6割であるとか7割であるとか認めあっております。ちなみにこの借地権割合の基準となっているのは、主として、税務署に備えてある相続税の算定のための路線価図で、そこにはそれぞれの土地に面している道路と税務署としての地価(これは、公示価格の概ね8割となります)が設定されていると同時に、その辺りの借地権の割合が2割〜9割までと決められております。首都圏の場合、商業地域で概ね7〜8割、住宅地域で5〜6割となっております。

  さて、借地というものは、昔、といっても戦後まもない頃、親戚とか、あるいは近所の人が困っていたので、地主が「親切に」、今でいう権利金とか借地権料とかいう一時金もほとんど無しで、しかも安い地代で賃借したことから始まった事例が割合に多いのです。それが今になって、なにがなんでも借地権だ、6割だ7割だのと言われたのでは、地主の立つ瀬がありません。どうして自分の土地の所有権が、4割だとか3割だとかに減ってしまうのか、地主にとってはほとんど納得の出来ないことなのです。
  この点に関して歴史的経緯を簡単にいえば、戦後GHQによって行われた土地改革の一つに農地解放がありましたが、その際は都市部の宅地については手がつけられず、以後約50年かけて、借地法の幾度かの改正によって、「借地権」を「債権」から「物権」に近づけることにより、都市部の土地改革を行ったということになるのでしょう。一方そのお蔭で富の再配分が行われ、個人消費が確保される社会基盤も形成され、それが現在の日本経済の繁栄を支えているということにもなるわけです。

  しかしそうした経緯はともかく、地主は現在大いに不満なのです。ですから20年に1度巡ってきた借地契約の更新時には、今までの安い地代と、今後も安いであろう地代と、そして借地関係のスタート時にほとんどタダ同然で「取られてしまった」分を少しでも取り返させてもらいたいと思っても不思議ではありません。そこで「更新料」という名目による契約更新時の一時金がクローズアップされてきたのです。
  更新料は慣習として、借地契約更新時の更地価格に借地権割合を掛けて、その5〜10%位が支払われています。地価が坪あたり100万円の土地100坪で、そのあたりの借地権割合が6割ならば、100万円×100坪×0.6×0.1=600万円となります。
  ところが、この借地更新料なるものは法律上は根拠がないので支払う必要はないとも言えます。しかし、前述のような地主の気持を理解するならば、この更新料を支払わない場合、その後の地主・借地人の関係は円満でなくなるかもしれないし、将来直面する地代の値上げの問題、あるいは家の大規模修繕、増改築、また新築建て替え、さらには借地権の売却等々すべての場合に、地主との交渉は暗礁に乗り上げてしまうことも考えられます。そこで、「お互いさま」のこととして妥協点を求めるというわけです。

  この更新料のことで借地人さんが弊社に良くご相談に来られます。法律的に明確な根拠のない更新料など払わなくても良いのではないか、というのがご相談の主旨です。
  その場合、私はこうお答えします。
  支払えないのなら仕方ないが、少々無理をすれば払えるのならお払いなさい。ただし、金額は地主さんとよく話し合ってなるべく低くしてもらいなさい。と。

  月並みな答えじゃないか、とお感じになるかもしれません。しかし借地契約というものは、地主・借地人という特定な人と人との関係で、今後もほぼ半永久的に続くものですから、法律論よりもなるべく人情常識論で処理するほうが良いのです。まさに隣人不変を前提とした農耕社会に必須の「和を以って貴しと為す」という考え方が、ここではもっとも有効なのです。
  もちろん、借地人側に資力があり、地主が底地を売る意思をもつなら、この機会に底地を売買して、借地関係を解消するのがベストでしょう。また、土地の形、建物の配置などにもよりますが、この土地を1/2ずつ地主と借地人とで分けられるのなら、この際分けてしまって、お互いがその1/2の完全な所有権をもつというのがベターとなります。
  前述の例は地価100万円でかつ100坪位としましたので、それなら600万円位で済みますが、これが同じ100坪でも、地価200万円あるいは300万円であったら、この更新料は1,200万円ないし1,800万円となってしまいます。定年後、静かに借地に住んでいる老夫婦などにとって、この支払いはほとんど絶望的なものでしょう。
  こういった場合の対応について次の機会に検討してみたいと思います。

(株)ハート財産パートナーズ 林 弘明


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