為せば為る
借地更新料と新借地法

  今回は、貸地(借地)関係で借地人が借地更新料を払えない場合について考えてみたいと思います。

  一概に「払えない」と言っても、払う気持ちが無いので払えませんというのか、気持ちはあるがお金が無いので払えないというのかによって問題の性質は違ってきます。

  前者の場合は、前回のハートレポートでもお話しましたが、値段の交渉をして(これを値交渉=ネゴ=Negotiationと言います…)安くしてもらったら、やっぱり払った方が良いと思います。そもそも借地権なるものは、ほとんど元はタダなのですから、借地人も、このあたりは、地主の気持ちに立って考えてあげて、20年に一度のことですから、払うものは払った方が、日常の生活を平静に保ちうるのです。それは金銭にかえがたい値打ちを持っています。

  では、後者の場合について考えてみましょう。お金が無くて払えない場合です。更新料も無いのですから、たとえ地主が底地を売ってくれても買えません。もし、地形、また建物の配置などの条件が良ければ、土地を1/2に切って、半分を地主に返して、その代わり建物のあるほうの残りの1/2を借地人がもらうという方法があります。いわゆる借地と底地の交換です。税務上は土地の等価交換とみなされますので原則無税です。

  しかし、この方法も、小さな土地で、しかも1/2に分けると建物がのっていて、壊さなければならないという場合などには使えません。こういった場合他に売却換金できる不用不急な不動産でもあれば、それを売って自宅の借地を救うことが出来ます。しかし、他に売るべき不動産もなく、もし更新料が1,000万円あるいは2,000万円という高額であれば、それを支払うためには借入れをしなければなりません。
  返済能力のある現役の社会人ならば、その人の収入から返済能力を割り出して、その範囲内で銀行もお金を貸してくれるでしょう。しかし、定年後の年金生活の老夫婦で、しかも子供がいない、あるいは、子供は独立していて、親のこうしたお金の面倒はみられない場合はどうでしょうか。
  こういったケースの場合、もうほとんど絶望的でして、この老夫婦に残された選択は、地主に無理を言って、更新料を本人が支払える金額まで大幅に下げてもらうか、もし下がらなければ、法律を盾にとって払わないと決め込むほかにありません。最後は、契約を続行できないので、永年住み慣れた自宅の土地を地主に返して、その地を去るしかなくなってしまいます。
  ところが実際には、こうした悲しい状況がむやみに発生しないのは、地主がひたすら我慢して、世の為、人の為と、奉仕の精神で更新料を大幅ダンピングしているからです。地主側からすれば、借地権はタダで取られるわ、20年に一度の更新料も取れないわ、という踏んだり蹴ったりですが、どう強談判を繰り返しても、また裁判に訴えても、無い袖は振れず、結局は要求する地主が世間から悪者扱いされてしまうことにもなるのでしょう。「泣く子と地頭には勝てない」といいますが、この場合は、さすがに地主も、金の無い借地人には勝てないという事になるわけです。

  しかし、為せば為る、です。そこで少々大胆なのですが、この解決方法の一つを提案致しましょう。それは、平成4年8月1日より施行された借地借家法新法を使う方法です。
  この法律の最大の目玉は「定期借地権」です。従来は一度土地を他人に貸すと、よほどのことが無ければ、地主にその土地は戻りません。ですから近年では貸地という方法での宅地の供給がほとんど無くなりました。地主は、他人には貸せずさりとて建物を建てる資金が無い場合は、ただ空地として遊ばせておくしか方法がありませでした。

  そこで、借地借家法新法によって、所定の方法をとれば、短くて10年、長ければ50年後には、必ず土地を返してもらえる借地契約が可能となります。しかし、この新法は、従来の借地には、ほとんど影響を与えません。平成4年8月1日以降に借地借家法の所定手続きに基づいて契約した借地にのみ、効力があります。この新法を既に勉強なさった地主さんは、多分がっかりなさったことでしょう。また、借地人さんはその反対に安心なさったかもしれません。
  話は戻りますが、私は、更新料を払えないで困っている老夫婦の問題解決に、この借地借家法の「定期借地権」を使ってみることを考えました。
  それは、こういうことです。まず旧借地には借地借家法新法は効力ありませんので、更新時に、いったん旧借地を解約します。借地の解約といっても、実際には借地権というものは何千万円という価値のある物ですから、この借地権を地主に買い上げてもらうことになります。次に、この老夫婦と地主との間で、借地借家法新法に基づく「建物譲渡特約付定期借地」の契約を結びます。この少々長い名前の借地契約は、期間30年以上として、期間満了したら、地主が借地人の建物をその時の時価で譲渡を受ける旨特約して、その時点で借地権は消滅するという契約です。
  この方法により、老夫婦は地主へ更新料を支払う代わりに、地主から借地権の売却代金がもらえるわけですから、このお金で、今までの年金生活以上のゆとりを持って生活ができます。むろん、老後の病気に備えて貯えておくことも結構です。
  そして、幸いに長生きして、この30年が経過しますと、建物を地主へ譲渡して、借地権が消滅します。この場合、今度は地主と老夫婦との間で、改めてその建物の借家契約を結びます。ですから老夫婦は、その建物を出て行かないでよいわけです。一生涯、住みなれた土地と家に居られます。(※現在ではこの場面には「定期借家契約」を使うと良いでしょう。)

  一方地主の方はどうかといいますと、一時的に借地権を買い上げることにより資金負担はありますが、旧借地が続く限りほぼ永久に返還されない土地が、30年経過すれば確実に戻ってくるわけです。更新料を払えない老夫婦の借地人を追い出すわけにもいかず、払えないものを無理やり払わせるわけにもいかず、ただひたすら奉仕の精神を強要させられてしまうよりはこの際少々無理をしても、この方法によることの方が得策でしょう。もちろん地主にしてみれば、ある程度人助けするのですから、買い戻す借地権価格は、相当低くおさえられると思います。
  万一、地主の側にも借地権を買い戻す資金が無ければどうするか。これは、もうウルトラCを使う以外にないでしょう。
  このウルトラCは、考え方は同じですが、お金を動かさずに行います。借地人は地主に借地権を売却し、地主は借地人より借地権を買い戻すわけですから、その反対に借地人は地主にその買取り資金を貸し、地主は借地人よりその買取り資金を借りたことにします。そして次に、借地借家法新法による借地契約を結び、借地人は地主へ新地代を払いますが、地主は借地人へ借りたお金の利息を払います。それを同額にすれば相殺されますので、事実上、全くお金が動かずに旧借地から新借地への乗り換えが可能となります。(現実には、借地人の借地権売却にともなう譲渡所得税がありますので、ある程度のお金は必要となります)

  以上、この方法は平成4年8月1日に施行された借地借家法新法に基づくものですので、なお研究の余地はあると思いますが、理論的には可能です。しかし、いずれにしても、「更新料を払えない定年後の老夫婦」と「納得できる更新料を払ってもらえない哀しい地主さん」とを同時に救える道が、この方法によって開かれるのではないだろうかと私は考えております。

(株)ハート財産パートナーズ 林 弘明


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