今買うか、まだ待つか
マイホーム

  最近、私はある友人から相談を受けました。マイホームを今買うか、まだ待つか、悩んでいたのです。彼は私に向かって、一生一度の大きな買い物だから、失敗しないように慎重に検討していると、今買うべき理由を云々・・・・、また、まだ待つべき理由を云々・・・・、熱っぽく語りました。
別の友人は半年前、念願のマイホームを手に入れました。そして私に尋ねました。「マイホームは果たして今が買い時だったのだろうか?」と。この場合も、一生一度の大きな買い物がこれで良かったのだろうかと、彼なりの安心を求めたかったのでしょう。
この2人の友人への私の回答は明快です。
 1人目の友人への回答は「今買うべきです」。そして2人目の友人への回答は「半年前買ったのは正解です」。
マイホームについては、どんな時代、どんな経済環境のもとでも、本人がそれを買いたい時、そしてひどく無理をせずに買える時が買い時というのが私の持論です。
バブル崩壊以前、日本では土地の値段は上がることはあっても下がることはありませんでした。この地価右肩上がりの状況のもとでは「買い時」は常に「今」でした。「今」の地価が常に最も安値であり、明日の地価は常に今日より高かったからです。
日本が近代工業国家として経済成長を続けてきた間、正に地価右肩上がりの土地神話は、神話ではなく実話でした。しかし円熟資本主義経済時代とでも言いましょうか、いわゆるストック経済時代へと入ると、土地も経済のストックとして、様々な事情によってその価格は上下するものとなったのです。
「バブル急膨張、そして崩壊」は「地価右肩上がり」の時代から「地価は相場」の時代へと移る幕間の狂言であったのかもしれません。
そして不幸にもこの時期に、残業手当までローンの返済に充てこんで背伸びしてマイホームを手にした人達は、この不況下でローンの払いが追いつかず、といって売却しても、当時の買値より大幅に値下がりした値段では、頭金の回収はおろか借金が残りかねない有様となってしまっています。
こうした失敗を周辺で見ている人にとって、マイホームを買うにはかなりの勇気と覚悟が必要だったのでしょう。
さて、バブル崩壊後数年が経過して、一応、地価崩落過程も過ぎたと言えます。この時期でのマイホームの買い時は、冒頭に申し上げた通り「買いたい時、そしてひどく無理をせずに買える時」なのです。
「地価は相場」の時代に入った今、地価は相場ゆえに、いつが買い時かを真剣に検討すべきなのかもしれません。しかし、この地価相場は非常に多くの要素や事情によって形成されています。世界の政治経済情勢のなかでの日本の立場も大きく影響します。また国家の政治的施策、金利動向、融資制度、そして土地税制にも更に大きな影響を受けます。また、現在のような不況下での景気浮揚策として強力に推進されている「定期借地権」制度のような法律制度によっても地価は影響を受けます。今後の都市計画法、建築基準法の改正により、その土地の用途地域や建ぺい率・容積率が変わった場合も、その土地の地価は大きく上がり下がりします。「地下は相場」の時代に入ったとはいえ、一般人にはその相場読みは非常に難しいのです。
さて、こうしたことを前提にしてマイホームの購入について考えてみましょう。
まず第1にマイホームは他の不動産、特に投資用不動産とは違い、買った後、転売して差益を儲けようとは思わないものです。ですから地価相場が上下してもそれは単に評価の問題であり、自分がそこに住み、かつ利用することとは関係がありません。利用目的で入手したものは、その利用上の満足度が重要なのであり、評価上での儲けは実は虚構の儲けでしかありません。
さらに、将来は自宅を売却してそのお金で老人ホームへ入ろうと思っているといった場合でも、20年30年という長期間では、今の購入価格に対してほぼ必ず値上がりしているでしょう。あるいは実質的な値上がりは少なくとも、インフレに対しては十分対応できるものと思って間違いありません。
つまりマイホームというのは簡単に変形、損耗せず、盗まれにくく、またインフレによっても目減りせず、現在においても利用価値があり、場合によっては収益も期待でき、長期的には値上がりも見込める「資産」なのです。
「資産」とは現在の購買力を将来へ持ち越すための媒体であると定義するならば、マイホームに代わる「資産」は現在の日本には他に見当たりません。
マイホームを買いたい意志を持ち、かつひどく無理をせずに買えるのであれば、その時こそ正に「今が買い時」とお心得になっては如何でしょうか。

(株)ハート財産パートナーズ 林 弘明


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