新しい言葉
「ストック経済」時代

  最近、フロー経済あるいはストック経済という言葉をしばしば耳にしますが、その「ストック経済」時代及びそこでの対応について考えてみたいと思います。
フロー経済とは、個人レベルで言えば毎月の勤労所得の稼ぎ(給料)で今月をどのように過ごすかを考えることです。国家レベルで言えば、毎年のGDP、国民総所得、あるいは、生産、消費、貯蓄等を中心に考える経済のことです。
ストック経済とは、やはり個人レベルで言えば、蓄え(貯蓄)をどのように運用するか、また、土地、家、株などの資産の保有、売買について考えることです。国家レベルで言えば国民総資産のことであり、「バブルの崩壊」で若干スリムになったとはいえ、日本の国民総資産(ストック)と、GDP総額よりも大きくなっているその年の総資産増加額を中心に考える経済のことです。
こうして、ストックが中心的な役割を果たすようになった経済を「ストック経済」といい、フローが中心であった経済からストック中心の経済へ変化する過程を「ストック化」といいます。宮尾尊弘筑波大学教授によれば、日本においては、1970年代後半をフロー経済の成熟期とし、80年代前半がストック化の始動期、80年代後半をストック化の飛躍期、そして90年代をストック経済の全盛期ということになるのです。
個人レベルでのストック化の過程をもう少し詳しく考えてみましょう。
従来のフロー経済時代には、勤勉によって得た勤労所得を節約しながら消費し、残りを将来の為に、あるいは不測の事態に備えて貯蓄してきました。所得し、消費し、そして残りを貯蓄するというのが基本のパターンでした。一般的勤労者(サラリーマン)はこれを「本業」としてやってきました。しかし、ストック化の時代に入るにつれて、それまでに貯蓄してきた資産を上手に運用するという事が課題になってきました。金融資産であれば、より利息の高い金融商品で運用し、あるいは少々リスキーだが株式投資で運用したりします。また、蓄えた金融資産を頭金として借入を行い、不動産投資も行うようになります。サラリーマンも「本業」以外にこうした「副業」を行い、本業の勤労所得を少しでも補う収益を上げようとしてきます。
こうしてストック経済が本格化すると、副業による収入が場合によっては本業を上回るようになります。蓄積された資産は、金融商品、不動産投資へと運用され、さらに耐久消費財あるいは住宅といった実物資産にも使われます。そして今までは生活費を稼ぐ為に働いていた本人自身の労働力も人的資産としての位置付けを行い、将来にわたって得られるであろう勤労所得を利子率で割り引いた総額(複利原価により算出された人的資産の現在価額)と、今まで蓄えて来た金融資産、実物資産などのすべての資産をどのようび運用したら良いのかを真剣に検討することになります。
ストック経済時代では、家計における三つの資産、人的資産、金融資産そして実物資産をいかに上手に配分して効率良く運用するかが最も重要な課題となります。ここから従来のフロー経済にはみられない新しい発想が生まれてきます。
一般に資産の有利性は、1.安全性 2.値上がり性向 3.運用収益性 4.換金性にあると言われます。そして、各々の資産によりその性質が違います。
銀行預金は、安全性、換金性は高いが、運用収益性は低く値上り性向は無い。株式は換金性は高く、値上り性向も大きく見込めるものの運用収益性と安全性は低い。不動産投資は安全性は高く、運用収益性もまずまずで、値上り性向も見込めるが、長期保有が必要となる場合も多く、その意味で換金性にもタイミングが重要な要素となってきます。
人的資産としての本人の労働力は、高給のとれる東京で運用するのが有利です。しかし、東京に住居を取得すれば高給はそのままそこで費消されてしまいます。そこで住むのは都内の賃貸アパートとして、その差額分で高収益の期待できる地方都市の投資用マンションを購入して資産運用をはかります。これにより、高額所得に対する節税対策も可能です。
又、一般的に言って地価の高騰した所に住んでいる場合は、そこに賃貸ビルを建てその収益を返済財源として借入を行い、地価の低い所へ自宅を購入します。これにより、資産が増加するだけでなく、相続の際の節税対策もとれることになります。
このように、ストック経済時代では、個人レベルの行動においても、大きな変化が起こります。昨今の、株価の低迷、地価の下落など「バブルの崩壊」という目の前の激しい動きに惑わされることなく、いわゆる「木を見て森を見ない」ようなことなく、資産運用の面において、当を得た対応をしていきたいものだと思います。
人が生活をしていく上で、その選択肢が多ければ多い程、豊かで幸せな社会であるとするならば、ストック経済時代においての豊かさと幸せは、このストックをどのように運用、あるいは活用するか、そこで何を選びとっていくかにかかっていると言えるで

(株)ハート財産パートナーズ 林 弘明


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