大家さん こうしたらどうですか? 
古 貸 家 整 理 法

  資産家にとって、「貸宅地」「古貸家」そして「古アパート」は三大不良資産といわれております。前回のハートレポートでは「古貸家」の整理法のメニューとして次の方法をあげました。
1. 適切な修理・修繕で、適正な家賃をもらう。
2. 建物老朽化を原因として契約更新を拒絶し、明け渡しを要求する。
3. 土地・建物を借家人に買取ってもらう。
4. 相続の際、貸家の土地の底地を国へ物納する。
5. 相続の際、定期借地権を使って、その底地を国へ物納する。
そこで今回のレポートでは、この古貸家整理法メニューの第1と第2について、もう少し詳しく書いてみましょう。
1. 適切な修理・修繕で、適正な家賃をもらう。
不動産経営者としての「家主」の原則に戻って、古い建物であっても家主負担でしっかり修理・修繕し、設備の改善を施し、そのかわり家賃を周辺相場並に適正に値上げする。
古貸家といえども、当初は新築貸家であったはずで、賃料もその当時の平均的な収益性を確保していたはずです。長い年月の間、適正な修理・修繕、設備の改善を施すことを怠り、その結果、適正な賃料が取れなくなったという事情、あるいはその逆に適正な賃料値上げを怠り、その結果、投資効率から考えて適切な修理・修繕、設備の改善ができなくなったという事情が、優良な新築貸家を不良な古貸家に変えてしまったわけです。
貸家業は商売ですから、家主は適切な貸家を提供し、適正な賃料をもらうのが本来です。もし不適切な貸家ならば不適正な賃料であることはやむを得ません。
この第1のメニューは、不動産経営として、「家主」という商売の原則に立ち戻る方法です。
この方法で重要なことは、従来借家人へ転化していた修理・修繕を、今後は家主が行うことを明確にすることです。このことは次の2点において重要なことなのです。
第1点は、先に書きました「適切な貸家で適正な賃料」という商売の原則に立ち戻るということです。そして第2点は、借家人の借家権意識を強くしないためです。
古貸家の場合、同一人に対して、50年以上も貸している例もあります。もちろん同一人といっても、当初の契約時では、家主も借家人も各々先代同士でしょう。そしてその数十年の間、安い家賃でそこに住み、家の修理・修繕を自分の家と同様に借家人が自費でやっていますと、その本人はもう他人の家、他人の所有物とは思えなくなってしまうのも無理はありません。そこで「借家権」は徐々に強くなってしまうのです。
古貸家の不良資産化の背景には、当事者の問題だけではなく、「地代家賃統制令」という古い法律があったからともいえます。しかし今では、その法律も廃止されていますから、この第1のメニューは遅ればせであっても現実に実行できる方法の一つです。
2. 建物老朽化を原因として契約更新を拒絶し、明け渡しを要求する。
少々事が荒立つかもしれませんが、建物が古くなり、第1の方法のように追加再投資することに不動産経営上、経済的合理性がなくなったとして、次回の契約更新を拒絶して明け渡しの話し合いを持ち、場合によっては、明け渡し訴訟も辞さないというわけです。
この第2のメニューでは、借家法により、契約の更新拒絶には、家主の側に「正当な事由」が必要とされます。借家法においても、借地法と同様に、この「正当な事由」が最も分かりにくい事柄の一つです。
「娘1人に婿2人」の状態のもとで、どちらの婿(家主と借家人)が、この娘(家)をより強く嫁に欲しがっているのかが、この正当事由の判断基準となります。
そこでは、「所有は貸借を切る」という民法の原則は働きません。その家を所有している家主と、その家の・・居住している借家人は、いわば同等の立場で「どちらがこの家をとるか」が検討されます。
そして家主の方がより切実にこの家を必要としている場合に限り、契約の更新拒絶が認められ、明け渡しが認められます。その際、家主が借家人へ提示する立退料や、修理修繕の資本的再投資の経済的合理性なども判断材料に入れられます。
第2のメニューは、この点で第1のメニューと密接に関連しています。第1のメニューである適切な修理・修繕を施すに見合わないほど古い建物であれば、第2のメニューの契約の更新拒絶の正当事由として、建物の老朽化をあげることができるからです。
しかし、この場合でも、単純に無償で明け渡しを認めてしまうと、借家人に酷となってしまうので、大抵の場合、家主は借家人に妥当な額の立退料を提供します。
そこで、この立退料をいくらにするかが次の重要なポイントになります。
しかし、誠に困ったことに、この立退料にはそれを算定する法律も、広く一般に認知された理論もありません。場合によって完全無償で立退く人もいれば、「居住権」「営業権」「借家権」などを主張して、大金を要求する人もいます。
立退料とは、言い方を変えると借家権の価額ということになりますが、税務署はこの借家権をいくらと見ているのでしょうか。相続税の算定評価の際に使われる「財産評価基本通達」で見てみましょう。
税務署の借家権評価の方程式は以下です。
 借家権=更地土地価額×借地権割合×借家権割合
借地権割合は、その地域ごとに決められておりますが、首都圏の平均的住宅地では概ね60%です。そして借家権割合は一律30%です。
税務署では、借家権価額を、更地土地価額を100として、その借地権割合60%の借家権割合30%と計算して、60%×30%=18%と評価しています。
坪単価100万円で50坪の土地に戸建貸家が一軒ある場合、この貸家の借家権は、@100万円×50坪×60%×30%=900万円となります。
裁判所はどのように見ているのでしょうか。裁判例は、個別の事情によって様々ですので一概には言えませんが、平均的な見方をすれば、その土地の更地評価の10%〜15%くらいではないでしょうか。
立退料=借家権価額については、ほかにいくつもの算出方法があると思いますが、家主としてはこれをどのように考え、いくらまでなら出すと判断すべきでしょうか。
私は日頃、貸地とは法律と経済と人情の三つ巴の問題であると言っておりますが、この貸家についても全く同様なのです。そしてこの立退料を考えるについて、家主が法律と人情を脇において、経済問題としてのみ考えられるか否かがポイントです。
「こんなに長い間、こんなに安い家賃で貸してあげていたのに、いざとなったら、こんなに高い立退料を出さなければならないなんてとんでもない」という人情を振り切れるか否かです。
立退料のひとつの目安としては、第1のメニューによって再投資すべき金額でしょう。古い建物に大枚はたくなら、それを借家人に提供して明け渡してもらう第2のメニューに切り替えるのが良いかもしれません。
また戻った土地をどのように有効活用するか、その経済効果の範囲内で立退料の金額を考える方法もあります。極端な言い方をするならば、立退料をいくら出しても、それによって返ってくる古貸家転じて更地の価値が充分見合えば良いわけです。
いずれにしても、古貸家という不良資産を持ってしまっている資産家は、このままでは相続が発生した際、多額な相続税を支払うはめとなり、しかもその財源に事欠くという最悪の事態を招きかねません。
「思い立ったが吉日」といいますが、古貸家という不良資産の整理整頓は、大家さんが元気なうちから始めるのが良いのです。

(株)ハート財産パートナーズ 林 弘明


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