基本から応用へ
貸地関係解消法−その1

  貸地関係の解消法には、

  (1) 地主が借地人へ底地を売却する。
(2) 地主が借地人から借地権を買い戻す。
(3) 底地と借地を等価交換して、その敷地を一定割合で引き分ける。
(4) 地主と借地人が底地と借地権を第三者へ同時に共同で売却する。

  がありますが、今回はそのバリエーションとしての応用6法について述べましょう。

  <応用6法>
  (1) 地主の底地と借地人の別の土地(更地)とを等価交換する。
(2) 地主の別の土地(更地)と借地人の借地権とを等価交換する。
(3) 等価交換手法によるマンションをディベロッパーが建設し、底地権・借地権分の専有床をもらい、それを地主と借地人が一定割合で分ける。
(4) 地主は底地を、借地人は借地権を各々別に地上げ業者に売却する。
(5) 地主は底地を底地買い専門業者へ売却し、その業者が借地人へ底地を売却する。
(6) 地主は相続で物納して、将来借地人は国から底地の払い下げを受ける。

  応用6法の(1)は、基本4法の(1)の地主が借地人へ底地を売却する方法のバリエーションです。それは、地主が借地人へ底地を売却する際、代金をお金でもらわず、借地人が別に所有している更地の土地を受け取るというものです。もちろん代金に見合った分の土地をもらいます。つまり、地主の底地と借地人の別の土地(更地)とを等価交換するのです。
  ふつう地主が借地人へ底地を売却した場合、地主の側はその売却代金に応じた不動産譲渡所得に対して税がかかります。地主はその底地を土地が安かった昔から持っている場合が多いので、課税譲渡所得を計算する上で譲渡資産の取得費を多くは計上できず、その結果、税金が多くかかるのが一般的です。そこでこの応用6法(1)の方法をとれば、交換して受け取った土地を売らない等の一定の条件の下では無税の特例が使えるので、税金分だけ地主にとって得となります。
  応用6法(2)は、前述の(1)を逆に使う方法です。つまり、地主が借地人から借地権を買い戻す際の代金をお金で支払わず、自分(地主)が別に所有している更地の土地を渡すというものです。もちろんその借地権価格に見合った土地を渡します。この場合も(1)の方法と同様、原則として無税の特例が使えるので、借地人は借地権売却による不動産譲渡所得税をほとんど支払わずに、自己所有地を手に入れることが出来ます。

応用6法(1)と(2)についてもう少し詳しく書いてみましょう。
  面積は50坪、底地・借地の比率は平均的住宅地として、底地4:借地6の土地を例にとって説明します。(これは「路線価図」でのD地区にあたります。首都圏の平均的住宅地では、概ね、このD地区となります。)



  この例では、地主の底地の権利は全体の所有権の40%であり、敷地50坪のうちの20坪分が地主のものです。そして、借地人の借地権は同じく全体の所有権の60%であり、敷地50坪のうちの30坪分が借地人のものです。
  敷地50坪に対して、地主は20坪分、借地人は30坪分の権利を持っていることになります。貸地関係というのは、民法上の持分割合による共有と非常によく似た状態なのです。
  応用6法の(1)と(2)は、この底地を借地の垂直的持分権を、水平的に分割する方法と言えます。(1)では、地主の底地20坪分と借地人の別の土地20坪分とを交換します。また(2)では、地主の別の土地30坪と借地人の借地権30坪分とを交換します。
  いずれの場合も、交換する土地の更地所有権坪当たり価格が概ね同一であれば、等価交換となり一定の条件の下で所得税法第58条(固定資産の交換の場合の譲渡所得の特例)の適用を受けることが出来るので、税務上無税となります。
  交換する土地の坪単価に差のある場合、坪数×坪単価=総額という計算による総額がほぼ等価であれば、前述と同様にこの特例の適用は可能です。
  借地人が家を建て替えたいと申し込んできた場合などでは、少々の建て替え承諾料をもらわずに、この機会をとらえて、この(2)の方法によって貸地関係の解消を図ってみたらいかがでしょうか。

  この応用6法(1)と(2)の交換による方法を使って、税務上の無税の恩恵を受けるには、次のような条件を別途に満たしていることが必要です。
  1. 交換する固定資産は、各々が1年以上有していたものであり、交換のために取得したものではないこと。
2. 交換後も、従前と同一の用途に供すること。
3. 交換する固定資産の価額に差があり、交換差金を授受する場合、その差額が高い方の価格の20%以内であること。
4. 同法の適用を受ける旨、確定申告すること。


  いずれにしてもこの方法を使う場合は、「生兵法は大怪我のもと」にならないように、顧問税理士か、当社のような不動産コンサルティング会社とご相談の上で実行なさるのが良いでしょう。
  応用6法(3)以降については、次回のハートレポートに譲ります。

(株)ハート財産パートナーズ 林 弘明


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