地主の側からみれば貸地はあまり割の良い資産とは言えません。それは地代というものが、その土地の資産運用利回りから考えてみると極端に低いからです。その上、地代の値上げ、借地建物の増改築の申出、借地契約の更新等どれ一つとっても借地人との煩わしい交渉が待っています。損得を無視して借地人の言うなりに譲歩すれば「良い地主さん」と言われるでしょうが、地主にも少々利のある要求をすれば途端に「因業地主」と言われかねないのです。こんな貸地など一日も早く手放してしまいたいと思っても、借地人がいてはなかなか売れません。そこで地主にしてみれば、納得のいく値段で借地人に買い取ってもらいたいと思うのです。
さて一方借地人にとって、借地ほど保有する上ではその資産価値が高額でありながら、不安定で難しいものはありません。日頃は安い地代さえ払っていれば、ほとんど自分の所有地同様に使うことができます。しかし、税制面において、固定資産税、都市計画税こそかかりませんが、譲渡所得税、譲渡にともなう法人税、また相続税、贈与税は土地所有権と同様にかかってくるのです。
その上、地代の値上げをはじめ建物の増改築・借地契約の更新等という地主との煩わしい交渉が必ず待っており、またその取扱いを一歩誤ると長くて暗い法的係争事件となり、極端な場合、その借地権を地主へ明け渡すことにもなりかねません。所詮借地は他人からの借り物です。機会さえあれば地主から買い取ってしまうのが一番です。
そこで今回はこの底地の売買についての具体的な手法について書いてみましょう。
地主が借地人に底地を売るとして、ここで底地の売買とは、売主は地主、買主は借地人そして売物は底地ですから、あと決まっていないのは「いつ」「いくら」でということになります。この「いつ」という売買のタイミングとして、借地契約の更新時あるいは借地建物の増改築・新築時などが普通に考えられます。
少々特殊なタイミングとしては、地主の相続発生時もありましょう。
これは、地主にとって相続発生という足元をみられる為、最も悪い時期ともいえます。しかし、物の売買というのは、売り手がいくら売ろうと思っても買い手が買おうと思ってくれなければ交渉にもなりません。この意味では、相続発生というタイミングは、買い手である借地人が密かに胸ときめかせて地主から底地を買ってくれと言ってくるのを待っている時ですから、底地売却としては最も絶好の時期とも言えます。「虎穴に入らずんば虎子を得ず」です。つまり地主にとっての至上命題である貸地の解消は、この機会にこそ積極的に進めなければいけません。
相続発生時というタイミングで、複数の借地人がいることを想定した底地売却の具体的手法について以下に述べましょう。
(1)地主の相続人が、相続税を支払う都合もあるので、この際底地を売却しても良い旨を借地人に対して伝える。この場合借地人側は、底地を安く買える千載一遇のチャンスと思っている訳ですから、あまり大きな期待と誤解を借地人に抱かせない為に、納得のいく値段でなければ売却しないということを正確に伝えます。
(2)次にこの「納得いく値段」とはいくらなのかを話し合います。この場合、次の3点を分けて整理します。
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A. |
当該地の現在の所有権売買相場はいくらか。 |
B. |
当該地の底地・借地権割合は何対何なのか。 |
C. |
所有権相場×底地割合=底地値段 この計算で一応の相場値段が出ますが、この値段から、地主・借地人双方の特殊個別事情を考慮して増減額するのです。 |
この場面で重要なことは、A.の土地の相場と、C.の特殊個別事情による値引きの問題とは性質が違うものであることを地主・借地人の双方で理解することです。
A.土地の相場の問題は、地主・借地人にとってそれが高いと思うか安いと思うかは別として、客観的なことと考えなければなりません。この相場値段の決め方についてはゲーム感覚による方法もありますが、各々がそれぞれのルートを使って調査するものも一つの方法といえます。当節この土地相場をつかむこと自体非常に難しいことです。まして、売り手は高い方が良いし、買い手は安い方が良いのですから、簡単に値段はつきません。しかし、高いといってもこれ位、安いといってもこれ位という中で、順々に決めながら少しでも上下の巾をせばめていきます。そして、借地人のいう下値段を100とした場合、地主が考える上値段がその5割増の150位であれば、概ねそれを相場とします。例えば坪当り100万円から150万円位の間といった所です。
B.当該地の底地・借地権割合ですが、これは「路線価」に基づきます。一般的に住宅地で底地・借地権割合は4:6、商業地で3:7が多いです。
C.特殊個別事情による価格の増減額の場合ですが、ここが一番骨の折れる所です。買い手である借地人の側からは、思いつく限りの事情が出てきます。
借地契約の更新料を払ったばかりなのでその分を割引きして欲しい、地代が他所に比べて高かったのだから底地を買うときは安くして欲しい、自分はもう定年後の年金生活なので安くして欲しい、私は親の代から地主さんの家のことをお世話してきた、先日のお葬式でも一所懸命面倒見たetc。実に様々な個別事情があるでしょう。
この時、注意しなければならないのは、もしそこに地主への永年の恨みつらみなどがくどくど出てきて、個人攻撃にまでいたるようならこの交渉は打ち切りです。内心買いたいのはやまやまだが、相場値段では少々割引いてもらったとしても、お金がなくて到底買えない。その買えない悔しさの表れとみるほかはありません。
この際本当に買おうと思っている借地人は、過去のいきさつがあったとしても、その感情を抑えて冷静に底地売買を進めようとします。地主を怒らせてしまうような地主攻撃・悪口が底地値段を安くすることにはならないし、場合によっては底地を売ってくれなくなってしまうかもしれないからです。
こうして、特殊個別事情を地主も借地人もそれぞれに述べ合いますが、言い分というものは、片方にあれば同じだけ他方にもあるのですから、「納得のいく値段」が最終的に決まる幅は地主側からすれば最大で20%〜30%の値引きという範囲でしょう。
(3)最後の局面ですが、借地人に買取りの決断を促します。それは、次の様な地主の現在の立場を正しく説明して十分に理解してもらうことです。
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1. |
今回地主が底地を売るのは、相続税を支払う為である。 |
2. |
地主は原則として、すべての底地を無理してまで売りたくないし、売る必要もない。 |
3. |
借地人の底地買取りの値段の高い順に、そして、早い者順に、売却金が相続税支払い分に達するまで売却し、それ以上は売らない。 |
4. |
借地人の買取り値段が低く、また申込みが遅ければ、今回の売買の話は白紙となる。 |
値段の高い順、申込みの早い順に売却するというのは、いわば底地のオークション(せり売り)みたいなものです。借地人の立場としても、あまり値段にこだわって値引き要求していると、近隣の借地人が次々と買ってしまい、ついには自分の買取りチャンスを失ってしまい、借地解消の絶好の機会を逃してしまうでしょう。
このように地主は、自分の立場を十分理解してもらい、借地人の言い分も聞き入れた上で、借地人にその買値と申込み時期を自由に判断してもらうことにより、水が高きから低きへ流れるように、両者が納得いく自由な取引に近い状態で底地売買が決着することになるでしょう。
(株)ハート財産パートナーズ 林 弘明
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