今回は、経済的側面から借地関係の解消によるメリットについて考えてみます。
貸地(借地)関係の解消方法には、次の四つの基本的方法があります。
1.地主が借地人に底地を売却する。
2.地主が借地人から借地権を買取る。
3.地主の底地と借地人の借地権とを等価交換し、敷地を一定割合で引き分ける。
4.地主と借地人が底地と借地権とを第三者に同時に売却する。
地主と借地人のいずれか一方が他方を買取るだけの資金があり、また他方が売却しても良い、あるいは売却したいという事情であれば、第1あるいは第2の方法によって貸地(借地)関係を解消することをおすすめします。
地主が借地人に底地を売却するという第1の方法は、貸地(借地)関係の解消法として最もポピュラーです。この場合、底地買取り価格は本来価値の70%〜80%位でしょう。つまり更地価格(相続税評価額)×底地割合×70%〜80%となりますから、底地割合を平均的に40%として、底地買取り価格は更地価格に対して28%〜32%位となります。
地主は底地をその借地人以外の第三者へ売却しようとすれば、通常は買取ってくれる人はいませんから、いわゆる「底地買い屋」に売却することになります。その場合、更地価格の10%〜15%位となり、底地の本来価値を更地の40%としたら実に75%引きの大バーゲンとなってしまう訳です。そんなことが・・・、と地主さんは容易に納得することができないと思いますが、現実の問題として底地を売買した場合、この程度の価値しかないものなのです。
一方借地人の側も、その借地権を第三者へ売却しようとする場合、個別の事情によって異なりますが、その価格は概ね借地権の本来価値の80%〜90%位でしょう。一般に土地を買って家を建てようと思っている不動産購入者は、借地関係の煩わしさを嫌いますから、借地権を買うというのは、土地所有権を買うほどの予算のない人が、借地権だけで我慢するという場合が多いようです。ですから買い手が安いことを前提にするので借地権を単独で売ろうとすると最低10%〜20%程度はその本来価値から値引かれます。そして更にその借地権売却価格の10%を地主へ名義変更承諾料として支払う必要がありますので、借地人の手取金は借地権の本来価値の70%〜80%位となります。そこでもし地主にその借地権を買取る意向があり、第三者へ売却するより少しでも高く買取ってもらえるならば、地主へ売却することは断然有利なことなのです。
第3の方法は土地の所有権を概ね1:1で地主と借地人が分けます。土地の大きさ、地形、そして建物の配置、道路付け等の条件が揃えば、一定の条件のもとで所得税法58条の固定資産の交換による譲渡所得税無税の特例も使えますので、この方法によって貸地(借地)関係を解消するのは非常に好ましいと言えます。借地人が家を建替える時などには利用しやすい方法の一つです。
第4の方法は、ディベロッパー(不動産開発業者)が地上げ(土地の買い上げ)に来た時などによくみられます。底地にしろ借地にしろ各々別々に売ろうと思えば、その本来の価値(更地所有権価格に借地・底地割合を掛けた価格)から大幅に割引きされてしまいますが、この第4の方法によって地主と借地人が共同で土地を売却する場合は、概ねその本来の価値通りに売却することができます。地主と借地人が協同歩調をとることによって貸地(借地)関係の解消にともなう経済的メリットを最大限に実現することができるのです。
いずれにしても貸地(借地)関係では、借地人と地主とが相対で、あるいは協調して、その解消をはかることができれば、「買っての辛い、売っての幸せ」、それがお互いに幸せをもたらすことになるのです。
通常の商売の売り手と買い手のやり取りはいわゆる「ゼロサム」と言い、価格が安ければ買い手が得をして、売り手が損をします。反対に価格が高ければ買い手が損をして、売り手が得をします。合計するとゼロとなる、いわゆる「ゼロサム」の関係となります。
しかし、借地関係の解消は、前述のように考えるなら「ゼロサム」とはならず、「プラスサム」となることにお気付きいただきたいものです。
(株)ハート財産パートナーズ 林 弘明
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