分ける知恵
不動産の二つの四分法 その2

 先回のハートレポートにて、「不動産の二つの四分法」をご提案致しました。お陰様で多くの方より、ご高評とご助言を賜りました。そこで今回はそれらのご意見を念頭において、先回若干説明不足であった点を補うかたちで、もう一度「不動産の二つの四分法」について書いてみたいと思います。
最近、「バブル経済は崩壊」したと言われています。事実、株では、日経平均で一時4万円に届きそうであったものが、数年経った現在も未だ回復のきざしがありません。また、不動産においても、永久に値上りしつづけるかのような幻想から、すっかり目を醒まさせられました。「過ぎたるは及ばざるが如し」です。財産アナリストなどの専門家の間では、今は現・預金で持っているのが一番であるとさえ言われています。
時代の急激な変化の波に乗り続けることの難しさをつくづく思わせる今日この頃です。しかし、この様なことも、財産を現・預金、有価証券そして不動産の三つに分けて持つという、いわゆる財産の三分法を行っておれば対応できる事態であり、また逆に言えばこのような事態に対応するべく財産を三分しておくことが必要なのです。そして、今後も時代が変われば再び現・預金よりも株の方が、あるいは不動産の方が有利な財産となることでしょう。
このように「財産の三分法」は、私たちの財産を守る上で、非常に重要な方法論です。そして、この三つのうちの現・預金と有価証券の二つについては、今日、非常に研究が進んでおり、それぞれの専門家を尋ねれば、例えば、預金をするならどんな目的の場合どのような預金の種類が適当か、あるいは株式運用する場合どの株式銘柄はハイリスクハイリターンか、どの株式銘柄はローリスクローリターンか等々、十分な知識と適切な助言が得られます。
しかし、私達の財産のうちのおよそ7〜8割を占めている最も重要な不動産につては、従来その「質」と「量」について、深く検討せずただ漠然と所有している方が多いのではないでしょうか。不動産についても、どういう「質」のものを、どの位の「量」を所有するのかを十分に考えなければならない時代になってきたのです。
そこで私は、2種類の四分法によって、この不動産を分けてみました。
その一つは「種類」の四分法です。不動産の種類を イ.自宅 ロ.事業所 ハ.収益物件(家賃収入のある不動産)そして ニ.リゾート物件の四つに分けました。
他の一つは「地域」の四分法です。不動産の所在により a.地元 b.東京 c.地方主要都市そして d.海外の四つに分けました。
何故こうした分け方が必要なのかを、この数年の地価高騰を例にして考えてみましょう。今回の地価高騰は、昭和50年代後半から、都心の千代田、中央、港のいわゆる花の三区からジワジワ始まりました。当時その原因として、東京はロンドン、ニューヨークに並んで世界の金融の中心地になる、この三つの都市は地球をタテに三等分した位置にあり、金融市場が地球規模で24時間休みなく開いている為には都合が良いのだというものでした。また1997年に香港が中国へ返還されるので、香港資本が東京へ移ってきている、だから東京は、まだまだ事務所不足となるので土地は買われていくとも言われました。その頃の日本は、経済大国として前途洋々たるものがあり、いずれの理由もうなずけるものでした。神田の小さな印刷屋さんが、地上げにあい、20坪ほどの土地を20億円で売ったなどという話も聞きました。
そして、事業用・居住用不動産の買替特例という税制優遇を受けて、その都心を売った人が、田園調布や成城といった都心周辺部の高級住宅地を買い、余るお金でやはり都心周辺部の杉並や世田谷のアパートを買いました。
田園調布、成城や杉並、世田谷を買った人が居るということは、それを売った人も居る訳です。次に、それらを売った人が、さらにその周辺部を都心から少しずつ遠ざかる様な方向で同様の種類の不動産を順番に買っていきました。鎌倉なども昭和60年頃から、こういった人達によって買われ、地価がみるみる上がっていきました。
この時期あたりから、首都圏では、もう利回りの良い収益物件が手に入らなくなった為、これらの余剰資金は、札幌、仙台、名古屋、福岡といった地方主要都市へ流れていきました。またその一部がリゾート地へも流れ、また海外へも流れていきました。数年間にわたり、前半はゆっくりと後半は怒濤の如く激しい流れとなって金が動き、それが「地域」ごとに時差を起こしながら地価を押し上げていったのです。そして昭和63年〜64年をピークに、都心で地価が反転して値下げに向かうや、それがまた順次「地域」時差を起こしながら、日本全国へ広がっていきました。
こうした日本全国に及ぶ地価高騰、下落のプロセスをつぶさに見聞きして私が感じたのは、自分の所有する不動産を一ヶ所に集中して所有していたのでは、これからの激しい時代の変化に対応できないということでした。
一方ストック経済時代に入った今日の日本では、不動産はその使用価値のみならず、その資産価値にも注目しなければなりません。そして、資産価値重視の考え方は、不動産を金融商品化していくことになります。東京人が高い利回りを求めて、札幌に平気でマンションを買い、それを賃貸で運用する。また福岡人が、逆に高い資産性を求めて東京の賃貸マンションを買うといったことが、すでに日常的におこなわれております。不動産の売買が、その地域を選ばず、その時代に応じてより有利な種類や地域に集まるようになりました。
所有不動産をいくつかの「地域」に分けることは、リスクの分散になると同時にストック増大の可能性を生むという訳です。そしてその不動産を所在によって、地域をいくつかに分けて所有するということになると、その種類も、自宅ばかりいくつも持つ訳にはいかず、また事業所もいきなり支社支店をいくつも出す訳にはいきません。自宅は地元に一ヶ所として、事業所もその本来の都合によって、地元ということもありますし、また東京ということもあるでしょう。そうした場合、地元にある自宅あるいは事業所以外の不要不急の不動産を売却して収益物件やリゾート物件を東京または地方主要都市に、場合によっては海外に買うことが、財産三分法のなかの不動産の所有の適切な方法なのです。
バブル経済崩壊後の今日では、ただ漠然と不動産を所有していたのでは、ストック経済時代におけるストック増大を目指すことが出来ないだけでなく、不測のリスクに対処することも出来ず、資産が目減りさえしかねない時代に突入したという認識が、私の「四分法」の原点となったのです。

(株)ハート財産パートナーズ 林 弘明


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