大家さん 困ってませんか?
借家法って、間違っている?

  平成7年1月17日未明、神戸を中心に関西の大地を揺るがした大地震、阪神大震災は倒壊家屋15万棟、避難住民50万人、死者6,038人という未曾有の大災害となりました。これらの被害の中でも特徴的なことは、発生時刻が明け方ということもあってか、建物倒壊による圧死者が死者のうちの89%に達したことです。
住宅は、本来、人を雨、風、天災から守るべきためのものであるにも係わらず、むしろそれ自体が被害の因となってしまいました。
神戸大学工学部教授(当時)室崎益輝氏は、今回の地震における生死を分けた事情を、朝日新聞社主催による住宅セミナー「住宅被害とこれから」と題した講演の中で以下の7つにまとめて報告しています。
第1は、建物の築年数です。築30年以上のものが多く倒壊して死者を出しました。
第2は、老人・病人は若者・健康人に比べて行動力に劣るので死亡の確率が高かったようです。
第3は、2階に寝ていた人より1階に寝ていた人の方が多く亡くなっています。
第4は、和室と洋間の違いです。最近の洋間は洋服ダンスがなく、壁面収納(作り付けのクローゼット)となっており、またベット生活なので、和室にタンス・布団敷き様式に比べて、地震に対してたとえ建物が倒壊しても、倒れたタンスに挟まれることなく、またベット脇の体を守る最低の隙間がとりやすかったとのことです。
第5は、部屋が狭いか広いかの違いです。むろん広い部屋の方が家具の転倒から身を守るのに都合が良かったということです。地震の最中には、その激しい揺れでテレビが横っ飛びに移動したとか、なんとグランドピアノが天井に激しくぶつかって再び落下したという話もあります。
第6は、地域社会の「コミュニティ」の有無が生死を分けたようです。地域住民がお互いに知り合っている所では、倒壊建物に生き埋めにされた人を皆で助け合って救出したそうです。
第7は、賃貸住宅における家賃の分析も加えられています。死者の数は、概ね月家賃3万円以下では比較的多く、7万円以上では少なかったようです。これは哀しいことではありますが、家賃3万円以下の賃貸住宅では、第1から第6までの条件のうちの大部分を満たしてしまうからでしょう。
関西では、戦後の高度成長期に北陸、山陰の農村部からの労働力を大量に受け入れました。その若者達の住宅として、安い家賃で提供できる共同住宅いわゆる「木賃」アパートが、「文化住宅」という名で大量に建築されました。「文化」という言葉は、「近代的」をイメージしたのでしょうか。こうした建物が、今回の地震で最も大きく被害を受けたわけです。
これらの建物は、いわゆる「木賃古アパートの悪循環」に陥ってました。つまり、古アパートだから家賃が安い、家賃が安いから修理・修繕がなおざりになる。修理・修繕がなおざりだから古アパートであり、古アパートだから家賃が安い・・・。一度こうした悪循環に陥ってしまったアパートは、今の日本では容易にそこから脱出できません。
こう言うと、皆さんは少々大袈裟と思われるかもしれませんが、現実の不動産賃貸業のなかでは、少しも大袈裟ではありません。何故か。その理由は、端的に言って借家法にあります。大正10年、未だ住宅事情が悪かった社会を背景にして制定されたこの法律が、世帯数より住宅戸数が上回った現代にそのまま適用されているのは矛盾なのです。
借家法上、当事者同士が取り交わす建物賃貸借契約書は大した意味を持ちません。家主が家賃を値上げしようとしても、その増額幅が借家人にとって不満ならば「供託する」という方法が許されます。また契約期限が到来しても、家主の都合で自由に借家人を立退かせることは出来ません。契約を改めて締結し直さなくても法定更新してしまいます。
どんな木賃古アパートでも、その始めは新築です。そしてその家主は、先に述べた古アパートの悪循環に好んで陥ったわけではありません。もちろん家主の不動産経営の努力不足という問題もありますが、こうなってしまった大きな原因は借家法の借家人保護制度にあるのも事実です。そして、阪神大震災では、こうした「文化住宅」に安い家賃で住み続けていた人達の多くが被害にあってしまいました。誤解を恐れずに敢えて言えば、本来社会的弱者を護るべき借家法が、その居住権を強力に護りすぎた故に、借家人を地震によって大きな被害にあわせてしまったとも言えるのです。
私の友人の関西の業者の話ですが、彼の管理していた古アパートが倒壊しました。そのアパートは例の悪循環に陥っていたものであったので、家主は順次自然退去するのを待っていたそうです。半分以上が空室だったそのアパートは、全室空室になり次第取り壊す予定ですから、当然修理・修繕もしません。まして、万一の地震に備えて耐震補強工事などはしていません。倒壊による死傷者が出なかったのは幸いだったのですが・・・。
何かおかしいとお思いになりませんか。それではどうしたら、こうした悲劇を出さずに済むようになるのでしょうか。
建物は、古くなりその耐用年数が過ぎたら建て替えることが必要なのです。建て替えの必要性はその建物ごとに事情が違いますから、一概に古くなったら建て替えなければいけないとは言えません。「耐震診断」を行い、耐震補強工事で済むものは済ませ、どうしても建て替えなければならないものは建て替えを計画すべきです。
賃貸住宅の場合、その障害となるものが借家法です。しかし、これとて、法の趣旨である社会的弱者救済を考慮に入れつつ、古アパートの建て替えを進めることは不可能というわけではありません。
木賃古アパートを持っていることの家主のデメリットは3つあります。その第1は、当然に土地有効活用からみた側面です。駅歩5分といったアパート好立地であるが故に、既にそこにアパートを建てていたわけですが、それが古アパートとなってしまってその土地の効用、地価の高さから考えて、安い家賃では割が合っていないということです。第2は、相続対策からみて、家賃が安く収益性が低いから、相続税支払いの為の延納財源にはなりません。また古アパートで管理処分が難しいので物納も出来ません。ましてや借家人が全員立ち退いてくれなければ更地にして売却し、その代金によって金納することも出来ません。これでは駅歩5分の高地価の土地の高い相続税を払う方法がありません。
第3は、地震です。万一中規模な地震で周囲の建物はなんでもないのに、自分のそのアパートだけ倒壊して借家人に被害を与えたらどうなるのか。通行人などの第三者に同様に被害を与えたらどうなるのか。前者については民法415条債務不履行、後者については民法717条工作物責任という不法行為によって、それぞれ被害者から損害賠償を請求される可能性もあります。
こうした古アパートの家主の3つのデメリットを避ける為には、その建物を建て替えるか、取り壊すかする必要があります。この際に、立退料・引越費用という名目で適正な金額を家主は出すべきでしょう。これは家主地震の前述の3つのデメリットの解消の為のコストと思うべきです。
こうした古アパートの建て替え取壊しの為の立退きについては、大方の自治体が補助金を出します。例えば65歳以上の老人1人住いの場合、古アパートの家賃と移転先の家賃の差額を毎月助成するという制度です。(※当社では,首都圏すべての自治体のこの助成制度に関するパンフレットを保有しております。)
古アパートの家主さんも、借家人立退きを自分の利得の為だけとせず、相手の為を考えて、こうした自治体の助成制度を活用し、ある程度の身銭も切って、この問題解決の為に立ち向かうべきでしょう。"為せば成る"です。

(株)ハート財産パートナーズ 林 弘明


メニューへ戻る 上へ戻る