ご存知ですか
借家権ってなに?

  借家権とは、読んで字の如く「借りた家を利用する権利」です。借家契約によって借りる時、当事者同士の合意で、正当な対価(敷金・保証金等)を支払います。借りている間も、家賃という正当な対価を支払います。契約の期間が終了して(期間中のこともありますが)借主が、自分の都合で立ち退く時は、借りる時に預けた敷金・保証金等の返還を受けて契約が終了します。借家権とは「当事者同士の合意による借家契約に基づいて、借りた家を利用する権利」であると言えます。
一般の善良な市民にとって、他人から物を借りてその期限がきたら、持ち主へ返すのは当たり前ですから、その当たり前がお互いに当たり前とされているなら借家権に何等の問題もありません。
ところが、借家契約期間が満了して、貸主(大家)の方から借主へ立ち退いて下さいと言った場合、借主によっては、そうした当たり前が全く通用しなくなる事があります。
親子何人の生活をしている拠点なのだから、突然立ち退いてくれと言っても無理だ、どうしてもと言うなら代わりの物件を見つけてくれ、引越費用を出してくれ、居住権というのがあるのだから立退料をもっと出してくれ、あげくは「借家権」があるのだから、それを買い上げてくれ等々、もし、ここでお店でもやっていれば、営業権というのがあるのだから、さらに高い営業補償費を出してくれ、ということになってしまいます。
立退料・営業補償費・借家権価格等に厳密な相場はありませんが、アパート一室の立ち退きに、40〜50万円から、家賃10万円位の貸店舗で1,000〜2,000万円の立退料という話は、珍しいことではありません。
バブル時代、若いOL向けの雑誌に「楽して儲かるサイドビジネス」特集があり、その中で老朽化していて、近いうちに建て替えの為に立ち退きに遭いそうなアパートに入居すると、立退料が稼げるという話と、それら老朽化アパートの多い地域で、地図入りで掲載されたそうです。
それでも、お金を出すことで解決されれば良い方です。大家さんが借家人を立ち退かせるについては、借家契約の期間が満了しようと、どうしようと、借家法上当事者間で結んだ契約にはあまり関係なく、それ相応の正当な事由が必要とされます。
この「正当事由」というのが曲者でして、簡単に言えばこの貸家という「娘一人」に大家と借家人という婿二人が居る訳で、どちらがこの娘を嫁にする必要度が高いかが判断の基準となります。大家さんの方には、自宅もあり、別荘も持ち、他にも資産が多いのに比べて、借家人は「無産階級」で、ここを立ち退かされたら、他に行く所がない。このような場合は、大家が借家人を立ち退かせるための正当事由は無い、あるいは少ないと言います。
そこで、立退料を払うことで、この少ない正当事由を補強します。正当事由がさらに少ない場合は、より高額な立退料を払うことで正当事由をさらに補強します。最近の裁判の判決では、正当事由が無い場合に、借家権価格の2倍の立退料を払うことで、立ち退きを認めたものがあります。(東京地裁平成2年1月19日判決)ちなみに、借家権価格は、更地土地価格の1〜2割といわれています。
この例では、老朽化したアパート2階の四畳半一室、家賃月額17,000円のところで、立退料が700万円で決着しました。
何か、どこか、おかしいと思いませんか。
借りる時は、お互い同士が納得して、金額と期間を決めてスタートをしたものが、契約を満了して、借主が返す時は立退料はタダなのに、(もちろん契約でそう決めてあるのですから)貸主が返してくれというと、立退料・営業補償費・借家権買い戻し等々と莫大なお金がかかります。このおかしさの秘密は、大正10年に制定された借家法にあります。当時、家を持っていない社会的弱者とされた借家人を、社会的強者である大家から守るために策定された特別法です。借家人はこの法律によって特別に非常な保護を受けました。
時が移り、時代が変わり、今や必ずしも大家が社会的強者、借家人が社会的弱者であるとは限りません。そして、住宅戸数も日本の世帯数をはるかに上回り、常時相当数の空室が生じているのが現状です。しかし、この法律によって今でも借家人は特別に保護されいます。例え、今でも借家人が真に社会的弱者だとしても、国家の果たすべき住宅政策の不備のツケを、どうして個人の大家が、それを負わなければならないのか、という問題点が残ります。
今後とも、この立退料がさらに高額化してしまうと、老朽化したアパート貸家の建て替え、貸家・貸店舗の新規供給といった面での大きな妨げとなるでしょう。
豊かな時代の社会の谷間におかれた弱者を救うことは当然です。強者が弱者に対して、譲ることも、助けることも必要です。しかし、権利だからといってその不当行使は容認できません。立退料問題について取れるだけ取るという考え方は、「人間万事欲の世の中」であっても「欲多ければ身を損なう」という結果になりはしないでしょうか。
平成12年3月1日より施行された定期借家制度では、従来のこうした不合理を無くそうというものです。しかし誠に残念ながら、同法施行以前に原初契約が締結されている借家契約には同法の適用が当分の間なされません。
今後新規に契約するものについては、定期借家契約とすべきですが、従来の更新される借家契約については本レポートのような不合理な事情は解消されません。

(株)ハート財産パートナーズ 林 弘明



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