借地と底地
売ったらいくら、買ったらいくら

  貸地(借地)関係において、地主・借地人の関係が円満であれば申すことはありません。しかし、世間では、その人間関係がうまく行かず、互いに角突き合わせている状態が多く見られます。このような場合、出来ることなら貸地関係を解消した方が双方にとって好ましいとお思いになるでしょう。
  今回は、特に借地あるいは底地を売買によって、貸地(借地)関係を解消する場合のそれぞれの売買価格について考えてみることに致します。

  まず貸地(借地)関係をコーヒーカップと受け皿(ソーサー)に例えてみることにしましょう。
  ここに一組1,000円のコーヒーカップと受け皿があるとします。そして、その価値はカップの方が600円、お皿の方が400円としましょう。しかし、このコーヒーカップとお皿は一組がセットで売られれば1,000円ですが、もしこれが別々に売られたらどうでしょうか。カップだけではその本来価値が600円だといっても、お皿の付いていないコーヒーカップでは、2〜3割引でなければ売れないと思います。一方お皿の方はどうでしょうか。コーヒーカップのないお皿だけでは、その本来価値が400円であっても、せいぜい100円で売れれば良い方ではないでしょうか。

  貸地(借地)関係は、いわばこのコーヒーカップとお皿の関係です。借地権がコーヒーカップであり、底地権がお皿にあたります。それが一組のセットになっていて初めてお互いの本来価値が実現するのですが、しかし持ち主は各々借地人と地主であり、別々という訳です。
  カップの持ち主が、お皿の持ち主からそれを借りて、自分でコーヒーを飲むのに使っている時は、何も問題はありません。しかし、いざこれを売ろうと思った場合、カップ(借地人)あるいはお皿(地主)の一方だけでは、その本来価値を実現させることは出来ません。
  土地という貴重なそして高額な資産の価値を無駄なく実現させる為にも、貸地(借地)関係を解消することは好ましいことなのですが、この場合、最も難しい点は、借地権、底地権の売買価格の決め方でしょう。

  「価格」とは、自由な市場で売り手と買い手が、売りたい買いたいという必要性あるいは欲求の強弱による互いの綱引きの末に決まる一つの「結果」なのです。この綱引きは、「自由主義経済教」という宗教で言えば、神前で行われる唯一最高の神聖な儀式です。(最近は、政府という邪悪な悪魔(?)がこの神聖な儀式に何かと口を出してきておりますが。)
  しかし貸地(借地)関係において、地主あるいは借地人の一方が他方を買い取るという形で解消する場合、売主と買主、そして売買対象物がすべて決まっていますので、この綱引きも、自由市場における自由取引のようにはうまくいきません。落ち着く所に落ち着くという自然の摂理がうまく作用しないのです。買い手がやたらに強く綱を引っ張ってしまうと、売り手は綱から手を離してしまいます。その逆に売り手が強すぎても買い手は綱を離します。その結果「神の綱も仏の綱も切れ果つる」で、綱引きをしただけかえって後味の悪さを残してしまうことになるでしょう。

  そこで私の不動産コンサルティング実務を手掛けている実例から、売買による貸地(借地)関係解消の為の価格ガイドラインを作ってみました。貸地(借地)関係は、その一つ一つが個別的であり、かつ特殊ですから、このガイドラインがそのまま使えるわけではありませんが、相手方に納得をもたらす仲人(ちゅうにん)の経験として価格を決める際の考え方を提示致します。
  先のコーヒーカップとお皿のたとえをもう一度使いましょう。
  前述したとおり、カップとお皿は一対のセットで1,000円として、その本来価値は各々カップ600円、お皿400円とします。この本来価値が双方100%実現するのは、これを同時に第三者相手に売却した場合だけです。そして先にも述べたように、別々に他人に売却したら、カップは2〜3割引の400〜500円、お皿はせいぜい、その価値の1/4の100円程度でしょう。
  では、一方が他方へ売却する場合の価格はどうなるでしょうか。この場合売り手の事情によって価格に違いが出てきます。コーヒーカップとお皿を売っているお店屋さんで考えてみましょう。
  第一のケースでは通常営業している状態、つまり売り急いでいない場合です。第二のケースは、店舗改装しようとして、なるべく在庫を減らしたいと思っている場合です。そして最後のケースは商売を廃業するので、閉店処分バーゲンを行う場合です。この様な売り手の事情によって各々ケースごとに価格の付け方は違ってきます。
  これを図表にまとめてみました。
■借地権・底地権売買価格ガイドライン ※コーヒーカップソーサー1組1,000円

  コーヒー碗皿1,000円をたとえば土地所有権坪当たり100万円、借地権割合を6割として借地権を坪60万円、底地権を坪40万円と置き換えてこの表を見て頂けたら良いと思います。底地権つまり地主さんの割合が4割というのは、地主さんにとって少々納得がいかないかも知れませんが、首都圏の場合、平均的住宅地の借地権割合は6割となっております。
  借地人を例にとれば、将来ご自分の借地権を売るかも知れないとお思いならば、地主が底地を売ってくれる機会にそれを買っておくと良いでしょう。反対に地主が将来土地を売るかも知れないと思うときは借地権を買い取っておくことになります。
  今までの説明でお分かりと思いますが、カップの持ち主がお皿を買う際、400円のお皿は売り主の事情によって100円から300円位の価格で買えます。そして、カップとお皿のセットとして売る際にはお皿は400円の価値となるわけですから、この売却によってお皿から300円から100円の差益が出ます。そして、それだけでなく、カップの方も、それを単独で売るとすれば、150円位は値引きしなければならないのに、セットで売ることによってその本来価値600円で売れます。
  こうして、コーヒーカップとお皿をセットで売るあなたは、お皿の差益とカップの含み益実現と二つの利益を手に入れることが出来ます。

  平成4年8月1日より借地借家法が施行されましたが、従前からの借地は旧法適用となり、新法はごく一部の条文を除いて、ほとんど関係ありません。この際煩わしい貸地(借地)関係は、お金の問題としてドライに割り切ってしまって、売買によって解消してしまうことが賢明ではないでしょうか。

(株)ハート財産パートナーズ 林 弘明


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