地主さん、
貸地は瑕疵地(かしち)? それとも仮死地?

  貸地問題(借地問題)は、法律・経済(金銭)そして人情の三つの側面が互いに絡み合っている難しい問題です。今回はこの貸地問題の三つの側面のうちの経済的側面について、特に相続税という観点から考えてみましょう。

  相続税は、ご存知のように強度の累進税率となっております。最高税率で50%です。
  その昔、封建時代に百姓に課した年貢米は、その生産高の4割から7割位であったとのことです。4割を年貢米として納め、残りの6割を自分のものとすることを4公6民といって、民・百姓に大変喜ばれた徳政であったといいます。これが、5公5民となると普通となり、6公4民となると悪政といわれました。
  相続財産の大部分が、金融資産(現預金、有価証券など)であれば、例え50%の税金を課せられても5割支払って、残り5割がともかく手元に残る訳です。半分もとられるのは辛いけれど、残り半分といっても実際の金額は相当なものになるのだし相続税を支払うことができるのですから……なんとかなります。
  しかし、日本の平均的な資産家は、その財産の7〜8割までを不動産で保有しております。まして、地方の名門旧家といわれる地主さんの場合、財産の大部分が不動産です。そして、自分の自宅を除くとその他の大部分が貸地である場合があります。
  相続財産の大部分が貸地であり、相続が発生した場合、適用される税率が50%であったとしたらどうなるのでしょうか。

  まず相続税を計算する場合、その相続財産のすべてを「財産評価基本通達」という通達に従って計算するのですが、不動産については「路線価図」によって一つ一つの物件を評価していきます。そしてそれが貸地であった場合は、その土地が更地の所有権であった場合の価格の路線価に、底地割合を乗じた価額となります。底地割合は平均的に4割とみなして評価計算されます。(商業地の場合、底地割合が3割あるいは2割ということもありますが、住宅地の場合は概ね4割となっています。)
  底地割合が何割に評価されても、実際に換金する際にその評価額か、それ以上に売却・換金できるものなら良いのですが、底地というのはその土地上に借地人が居て、借地人の家が建っているのですから、売却するといっても他人にはなかなか売れません。
  結局売るとしたら、ある程度安くしてその借地人に売るしかないのです。地形などの割合で借地と底地をうまく交換できたり、借地人の借地権を買い戻したりする方法もありますが、一般的に底地を換金する場合は、その借地人にある程度安くして、または相当安くして買い取ってもらいます。
  もし、税率50%で課税されて納税するとして、その納税金を作るために貸地をその借地人に売却する場合、果たしてその土地の路線価評価額の底地割合40%に税率50%をかけた金額、つまり更地評価の20%でその借地人に売却できるでしょうか。
  底地の借地人への売却の価格は、通常更地の20%〜30%というのが通り相場です。プロの底地買い屋の場合は10%〜15%といわれています。
  そして、相続税評価の為の路線価と売買の実勢価格がほぼ同じくらいのエリアであれば、相続財産としての貸地は、実は相続税の負担の方が多いこともあり、それを換金した場合、相続税と差し引きしてお金が残るどころか、不足することもあります。むろん相続税を支払う為に、不動産を売却した場合の譲渡所得税減免の特例を適用することは当然です。(譲渡所得税の取得費加算の特例と言います。)例を挙げて説明してみましょう。

  更地価格の路線価と実勢価格がほぼ同じ、坪当たり100万円の土地(貸地)が100坪あるとします。底地割合は40%として、適用される相続税率50%、この底地を借地人へ売却する際の換金率を、更地価格の20%もしくは30%とします。 この換金率は、その時々の地主・借地人との間の事情の差、あるいは交渉の綱引きによって大きく違いますが、ここでは一応20%と30%の2例を考えてみます。
    (路線価=実勢価格)
    更地価格  @100万円/坪  ×  100坪  =  10,000万円
    底地割合  40%
    底地価格  10,000万円  ×  40%  =  4,000万円
    相続税額   4,000万円  ×  50%  =  2,000万円  ……(1)
    換金価格  (イ)換金率  20%  10,000万円  ×  20%  =  2,000万円  ……(2)
              (ロ)   〃   30%  10,000万円  ×  30%  =  3,000万円  ……(3)
    (イ)換金率20%の場合の差し引き手元金
          (2)  2,000万円  −  (1)  2,000万円  =  0円
    (ロ)換金率30%の場合の差し引き手元金
          (3)  3,000万円  −  (1)  2,000万円  =  1,000万円

  以上の通り、換金率20%では、差引き手元金ゼロとなります。換金率30%で、やっと1,000万円の余剰が出ます。実際には売却に要する費用もあり、手元金はより厳しくなります。
   地主さんにとって貸地は単なる瑕疵(キズ)地というより、もうほとんど死んでいる土地、仮死地であると言えるでしょう。

   相続税という「見えざる借金」、そしてその借金の取り立て人は、一家の主を突然に失った最も辛く悲しい時に、否応もなく押しかけてきます。

  「備えあれば憂い無し」と言います。
  地主さん、ご当主がご健康なうちに、不良資産の筆頭である貸地についてやれるべきことは、やっておくことが肝要かと思います。

(株)ハート財産パートナーズ 林 弘明


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